第12章 未完成な僕ら
――幼い頃から、サッカー選手になるのが夢だった。
けれど、高校最後の全国大会の決勝前に怪我をしてしまい、プロになる夢を諦めようとしていた、そんな時だった。
どうしても、と姉に頼まれ、姉がファンだったらしいRe:valeの結成三周年のライブに行くことになる。
インディーズなのに、ライブハウスには物凄い人と熱気で溢れていて。
正直、興味なんかなかったのに。
いざ、曲が始まれば。
一瞬で圧倒されたんだ。
ライブハウスを揺らす音、眩しいライトや、客席の歓声が飛び込んで、ぎゅっと身体中に詰まったようで―――。
「死ぬまであの日を忘れないよ。あれは電気ショックだった。止まりかけてたオレの心臓が動き出したんだ。 小さい頃から憧れてた、サッカー選手になるって夢が叶わなくなる予感がしてて、神様がきらいになったし、未来が怖かった。だけど、その歌を聞いた瞬間、悔しさも、悲しさも、きれいにさらわれていったんだ。波飛沫に体を洗われたみたいに」
『……その曲って、もしかして』
「――”未完成な僕ら”。」
ライブでその曲を聴き感極まった百は、Re:valeにファンレターを送った。
――「”未完成な僕ら”を聴いて、考えないようにしてた哀しさや悔しさがこみあげてきて泣いてしまったけど、これから前に進めそうです。この曲を作ってくれてありがとうございます」
Re:valeは順調に売れ始めていくなか、とある日、”血のイブ事件”が起きる。
千に女を盗られたと勘違いした男たちが、集団でステージに乱入したのだ。その時、百がステージに上がって男たちを倒し、Re:valeの二人を助けた。
その日のライブの後に、千と万里に謝りに行った百。そこで万里から連絡先を教えて欲しいと頼まれ、百は万里の手帳に”春原百瀬”という名前と連絡先を書く。
それが、三人の出会いだった。