第12章 未完成な僕ら
『………百!』
百が了の部屋の扉を開ければ、そこには驚く零と、隣に笑みを浮かべた了が立っていた。
「……零!!」
靴を脱ぎ捨て、持っていた紙袋をぶん投げた百は零の元へと駆け寄ってから腕を思い切り掴んだ。
『っ痛い…!』
「……なんでこんなところにいるの」
『………』
「……いいよ、事情は後でゆっくり聞かせてもらう。今すぐ帰って」
百のこんなに冷たい声も、瞳も、初めてだった。
零は動揺しながらも、首を横に振る。
『……帰らない。帰るのは百だよ』
「いいから今すぐ帰れ」
「ちょっと、モモ。手を離してよ、零が痛がってるだろう。僕が招いたのは零なんだから――」
そういって、了が零の腕に触れようとした、瞬間。
「……気安く触るんじゃねえよ……っ!!」
百の渇いた怒声が、室内に大きく響いた。
バチン、と音を立てて、了の手が百によって振り払われた。さすがの了も、目を見開いて驚いている。
『………百……?』
零の声にはっとして、百は慌てて了に向き直る。
「…あはは……ごめん了さん!オレには連絡返してくれないくせに、零とはこうやって会ってるから、ちょっとヤキモチ妬いちゃった!」
思ってもいないことを言ってごまかしてから、百は笑った。
けれど、いつもみたいに笑うことができない。
笑い方なんて忘れてしまったかのように、この状況に動揺して、上手く笑うことができなかった。
そんな百の様子に、了はくすくすと右手で口元を押さえ始め、やがて声を上げて笑い始めた。
「あはは!…百の怒りに狂った顔、愉快だなぁ!まるで狂犬だ!どう?僕との約束を破ったお返しは?効いた?」
「……ああ、めちゃくちゃ効いたよ。麻酔銃を撃ち込まれたみたいに。おかげで今ならその高そうなシャンパンで人一人くらい平気で殺せそうだ」