第12章 未完成な僕ら
「……モモ、この前は言い過ぎた。零とこっそり会ったことも。僕が悪かった、ごめん。危ない相手だったから、心配だったんだ。おまえは僕を大事にしてくれるけど、僕も、その、おまえが大事だし……宇宙的にも、永遠的にも……」
「――消火器相手に、何をぶつぶつ言ってるんですか?」
スタジオの廊下で、消火器相手に謝る練習をしていた千に、岡崎が背後から声を掛けた。
「……うわっ」
「うわって言うの珍しいですね」
「別に……」
「本人に言ってあげてくださいよ」
「聞いてたんだ……」
「いい台詞だと思いますけど、宇宙とか永遠は余計だと思います。僕なら鼻で笑っちゃいますね」
「………」
「今日は約束の話し合いの日です。ちゃんと百くんと話し合ってくださいね。二人とも、何も言わないでも、うまくやってこれたせいで、大事な話をするのが少し下手ですよ。ちゃんと仲直りして、零ちゃんと百くんも仲直りさせてあげましょう。このまま零ちゃんに無視されたままじゃ、百くん本当に死んじゃいますよ。自分もサポートしますから」
岡崎が、そういった時だった。
楽屋の扉が勢いよく開いたかと思えば、その中から血相を変えた百が飛び出してきた。
「……モモ?」
「百くん!?今日は話し合いの日ですよ!」
「ごめん、明日じゃダメ?今日は予定があるんだ!じゃあ――」
そう言って行こうとする百の腕を、千が掴む。
「どこへ行くつもりだ?」
「……了さんのところ」
「……本気で行くつもりなのか?あれだけ言ったのに。僕と零に嫌われても?」
そう言う千の腕を、百が振り払った。
「嫌われるのが怖かったら、最初からこんなことしてないよ。全部、オレのエゴだってわかってる。でも、それでも……守りたいんだ。ユキさんと零の居場所を。オレにとって…何よりも大切な二人だから」
そう言い残した百は、千と岡崎の哀しげな視線を背に駆けて行った。