第12章 未完成な僕ら
千に寮まで送ってもらってから、零はすぐさま自分の部屋に戻ると、鞄の中をまさぐった。そして、ぐしゃぐしゃに丸まった名刺を見付けて、綺麗に皺を伸ばす。
それは、月雲了から渡された名刺だった。くしゃくしゃに丸めて衣装のポケットにいれたものを鞄の中にうつして家に帰ったら捨てようと思っていたのだが、すっかり捨てるのを忘れていたことに今はほっと安堵する。
――これ以上、百を危険な目に遭わせるわけにはいかない。
危険を承知で、百はずっと守ってきてくれたんだ。だから今度は、私が守る番。役立たずの、何も知らない、ただ守られてるだけの弱い女なんてもう御免だ。
百は考えるとは言っていたけれど、頑固な百のことだ。きっと、千に秘密にしてでも会いに行ってなんとかしようとするだろう。そんなことは、わかっていた。
百を月雲に会わせないためには、もう方法は一つしかない。
零は名刺に書いてある番号を、ひとつひとつ打ち込んでから、僅かに震える指で電話を掛けた。
prr...と無機質な機械音が鳴ってから、向こうが電話に出たのか、雑音が聞こえてきた。
『……もしもし……』
≪……あはは、やっぱり!その声、零だろう?≫
『…はい』
≪待っていたよ!君は絶対連絡してくれると思ってたんだ。嬉しいよ、零。僕と仲良くしてくれる気になった?≫
『……月雲さんに、お願いがあって電話しました。困ったことがあったら力になると言ってくれましたよね?』
≪月雲さん、なんて。冷たいなあ。名前で呼んでよ。ああ、もちろん!可愛い君のお願いなら、なんだって聞いてあげる。言ってごらん?何かな?≫