第12章 未完成な僕ら
―――月雲……了?
先日、楽屋の前で奇妙な男に渡された名刺に書かれていた名前。
”何か困ったことがあったら連絡してよ。誰にも言えないようなことでも、僕なら力になれる。そう、君の大切なモモや、"TRIGGERの幼馴染"のことでも!”
彼の言っていた言葉を思い出す。
含みのある言葉ひとつひとつも、冷たい笑顔も、全てがどこか不気味で狂気じみていた。
この人は危険だ、と。直感で感じた。
そんな男の元へ、百が行ってしまう――そんなこと、想像しただけで恐怖と不安で押しつぶされそうだった。
「……零?どうかした?」
『え……あ、ごめん!うん、私が絶対止めるよ。何としてでも、百を止める』
「ありがとう、零。百に行くなと言うだけでいいんだ。僕から言うのと、零から言うのとじゃ、また違った重みがあると思うから」
『……うん、わかった。……この前のパーティでさ、星影さんと仲良くしてる振りしててって言ったの、月雲に会わせないためだったんだね』
「うん。月雲は零のことを気に入っていたからね。モモが絶対に会わせないようにって…今までも何度かあったんだけど、その度に必死に止めてたよ。愛されてるね、零」
『……。…百……』
「零を巻き込みたくないって気持ちは僕も一緒だ。でも、零にもちゃんと知っておいて欲しい。あの男と関わることがどんなに危険か。零には知る権利があると思った」
千がそう言ったときだった。
零の電話の着信音が鳴る。
『あ……百からだ』
「僕といて全部話を聞いたこと、言っていいよ」
頷いてから、零は電話に出る。
通話口から聞こえてきた百の声は、落ち込んでいるような、どこか元気のない声だった。