第12章 未完成な僕ら
『千ちゃん、おまたせ!』
バーに着けば、いつもの定位置に千が座っていた。
「零、お疲れ様。ごめんね、急に呼び出して」
『ううん、全然大丈夫。千ちゃんもお疲れ様!』
千の隣に座れば、店員がフルートグラスにスパークリングワインを注いでくれた。
上品な音を立てて、千とグラスを交わす。
『それで、どうしたの?百と何かあった?』
「……。……モモと喧嘩した」
『……え、また!?』
目を見開く零に、千は罰が悪そうに顔を顰めた。
『なんでまたこのタイミングで喧嘩なんか……何があったの?』
「…このまえ、千葉サロンを暴露しようとしてる人間がいるって話したろ?あれの首謀者と、モモは昔から付き合いがあるんだ」
『そうなの?芸能関係のお偉いさんなんでしょ?』
「……ああ。そいつが頭のおかしい男でね」
千は、零にすべてを話し始めた。
彼が自分たちを吸収しようとしていること、それを阻むために百が彼と裏で会っていること、その男がどんなに危険な男かということ、零には心配をかけたくないから黙っていること、先ほど楽屋で喧嘩をしたこと、そして週末また百がその男に会いに行こうとしているということ、全てを。
「モモには口止めされてたんだけど…。零には話すべきだと思ったから。それに、僕じゃモモを止められなかった。モモを止められるのは、零しかいないんだ」
『………。……話してくれてありがとう。…私も、千ちゃんと同意見かな。百の気持ちもわからなくはない。でも、これ以上その人と付き合うのはやめてほしい……。何か、きっと別の方法があるはずだよ……。百が危険な目に遭うかも、なんて、想像するだけで吐きそう…』
「だろ?零から言ってくれないか?もう付き合うのはやめろって。零の言うことなら聞くと思うんだ」
『……そうかなぁ。千ちゃんの言うことを聞かなかったのに、私の言うことなんて聞いてくれるのかな……。ていうか、その人どこのどいつなの?』
「この前のパーティにも来ていたよ。零に会わせたくなくて、モモがわざと僕と一緒に星影のところに行かせたろ。……ツクモプロの次男で、”月雲了”って男だ」
千の口から出た名前に、零は大きく目を見開いた。