第12章 未完成な僕ら
「へえ、千と百くんが?」
驚くような万理の声に、零は嬉しそうに顔を緩める。
二人は仕事終わりの楽屋で、差し入れを食べながら先日のことについて話していた。
『はい!二人が大和くんのために動いてくれて。今回の騒動も、そのおかげで収束したようなものですよ!ほんと、千ちゃんと百ってすごい!』
「はは、そうか。零ちゃんに二人のことを褒められると、自分のことみたいに嬉しいよ」
『二人とも、万理さんがRe:valeだった頃から変わらないんですか?』
「いやあ…。百くんはいい子だったけど、千は大分性格が丸くなったよ」
『え、あれで?』
「昔はもっと無口で、図々しくて、対人関係を築けない、顔だけが取り柄のトラブルメーカーだったからな」
『万理さん、容赦ない…』
「敵か信奉者しかいない男だった。音楽に関しては、昔からストイックだったけど」
万理から千のことを聞きながら、零は思いついたように口を開いた。
『私、千ちゃんと万理さんが歌ってる曲聞きたいです!…前に、百が言ってました。二人の歌は、自分を救ってくれた歌なんだって。えっと…確か、』
―――”未完成な僕ら”
百が一番好きだと言っていた曲だ。
「……うん、いいよ。照れ臭いけど、今度CD持ってくるね」
『やったあ!楽しみにしてます』
笑顔で零がそういえば、携帯の着信音が鳴った。
画面を見やれば、そこに表示されている人物の名前にぎょっと目を見開く。
『千ちゃんからだ』
「え……なんか、タイミングが気持ち悪いな」
電話をかけてきた千にも容赦ない突っ込みをする万理に苦笑してから、零は通話釦を押した。
『もしもーし』
≪急にごめんね。今何してる?≫
『収録終わって、楽屋でお菓子食べてるよ』
≪そう。今から会えない?二人で≫
『え?うん、いいけど、百はいいの?』
≪モモのことで相談があるんだ。迎えに行く、どこのスタジオ?≫
『わかった。いいよ、待ち合わせ場所まで行くよ。いつものバーでいい?』
いつも百と千の三人でよく行くバーで待ち合わせをして、千との電話を切った。
――百のことで相談、なんて。何かあったのだろうか。
ざわつく胸を抑えながら、零は千と待ち合わせをしたバーまで向かった。