第11章 夏の日の陽炎
『…っ!?』
「……キミが泣いてどうするの」
涙を拭いてくれたのは、天だった。
彼は眉を下げて、仕方なさそうに笑っている。
『天……っ』
「本当、泣き虫なんだから。目、腫れるよ。浮腫みやすいんだから、ごしごし擦らない」
『……うん……っ』
頷く零に、安心したように天は笑う。
天の笑顔を久しぶりに見た気がして、なんだかそれが無性に嬉しくて。零もつられて笑顔になった。
『ありがとう……』
「……どういたしまして」
そんな二人のやり取りを、百は哀しげに見つめていた。
大和の打ち明け話が一段落したところで、一織が口を開く。
「過去は過去として、大事なのは現状どの程度影響するかだけです。千葉さんは大御所ですし、星影も事務所が大きい。今まで醜聞騒ぎが起きていないのなら、今後も問題ないんじゃないですか?」
「ところが、そうでもないんだ」
そう答えたのは千だった。
「……え!?ユキ、話すの!?」
千の言葉に、慌てる百。
「隠してても仕方がないだろ」
「オレは嫌だよ!こんな大和が弱ってる時に…」
「構いません。教えてもらえますか?」
言い合う二人のやりとりを遮って、大和が言う。
そんな大和を見てから、百は乗り気じゃないながらも話し始めた。
千葉サロンの暴露を目論んでいる人間がいること。大和の告白を録音することを持ちかけられたこと。それを簡潔に話せば、大和はげっそりとした表情で口を開いた。
「……。マジで吐きそう……」
「OH……席を外して休憩しますか?」
『千葉サロンの暴露って…。大和くんの告白を録音するって、百は勿論断ったんだよね?』
「いや、断ってはない」
「「「『なっ!?』」」」
驚いて百を見つめ返す面々に、百は慌てて弁明した。
「録ってない、今は録ってない!身体検査してもいいよ!脱ごうか!?勝負下着じゃないけど!」
「落ち着きなさい。モモは表向き引き受けたふりをして、暴露する面子を探ってたんだよ」
千のフォローに、百はほっと胸を撫で下ろしながら続ける。