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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第11章 夏の日の陽炎




「みなさまのおかげで、話しやすい環境が整いましたので…」

「嘘だよお、もおおお……一番話しにくいやつだよー……こいつ、絶対わざとやってるよ……」

「Hm?」


まごまごする大和に、ナギは容赦ない。


「では、スピーチをはじめていただきましょう。さあ、ヤマト、プリーズ!」


ナギの呼びかけに、大和ははあ、と大きくため息をついてから話し始めた。

自分が、千葉志津雄の愛人との間にできた息子であること。そして、大和の家は業界の色々な人間たちが集まり、千葉サロンと呼ばれていたこと。元々、非公式の組合のような動きをしていたが、当時は映画会社の力が強かったため、互助会のような知り合い同士で集まって、結束を固めていったのだとか。
それがだんだん接待場のようになっていき、芸能界の秘密を煮込んで作ったスープみたいな状態になっていった。

それが、千葉志津雄の愛人宅――二階堂家は、そういう場所だった。


小さい頃は、父親が大好きだった。けれど、小学校高学年の頃に、初めて奥さんとテレビに映っている父親を見た。そこで初めて、自分が愛人との間に生まれたことを知る。

それから、父親と口をきかなくなった。あからさまな態度を取って打ち明けてくるのを待っていたが、中学になっても、高校になっても、父親は何も言わなかった。
何も言わないくせに、機嫌を伺う父親が哀れで、苛立たしかった。

父親のことも、自分のことも好きになれないまま、もういいやなんて思って生きていたけど、無性に許せなくなる時があって、そんな時にスカウトされた。

そこで、芸能人になったら、全部暴露してやる――俺に言えなかった話を、記者会見でさせてやる。千葉サロンでのタブーな話も、全部。

そう、思っていた。

けれど。
IDORiSH7のメンバーが、苦しみながら歌うたび、一生懸命頑張っている姿を見るたび、心からアイドルになりたいと夢を追うみんなを見るたび、胸が苦しくて、しんどかった。
こいつらの夢を叶えてやりたい、こいつらを守りたい、そう思った。
思うほどに、自分の経歴がIDORiSH7の邪魔をするんじゃないか、と――――ずっと、怖かったこと。

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