第11章 夏の日の陽炎
その頃、バラエティ番組の収録を終えた零は万理とスタジオの廊下を歩いていた。
『……あ!万理さん、すみません!私、タオル置いてきちゃいました…取ってきます』
「ああ、いいよいいよ。俺が取りに行ってくるから、零ちゃんは先に控え室に戻って着替えてて」
そう言って駆けて行ってしまう万理の背中を申し訳なさそうに見つめながら、零は控え室への道を歩く。
そのとき、ふと後ろに気配を感じた。
振り返れば、そこには白い肌に切れ長の瞳が特徴的な男が立っていて。
男は貼り付けたような笑みを浮かべながら、口を開いた。
「やあ!零、やっと会えた!ずっと、君に会いたかったんだ!」
見た目にそぐわない随分と陽気な声に、零は驚いて目を見開く。
『え……?ど、どちら様ですか?』
「ただのしがない同業者で、君の大ファンさ!……友人に頼んでも、なかなか会わせてもらえなくてね。やっと会えて嬉しいよ!君は僕に似てるんだ。今までずっと、ひとりぼっちで頑張ってきたんだろう?」
男の言葉に何事かと戸惑う零。そんなこともお構い無しに、男は続ける。
「僕にはわかるよ、君はどこにいても異端児だった。僕もそうだった!ようやく出会えたね!僕は君の味方だよ!」
『は、はあ……』
ここは、テレビ局だ。勿論関係者以外は立ち入り禁止だし、タレントの控え室がある付近に立ち入れる人間なんて限られている上に、ごく僅かだ。
関係者であることは間違いないのだろうが、どこか不気味めいたオーラを醸し出す男に、零は困惑せずにはいられなかった。