第11章 夏の日の陽炎
「……本気なのか……モモ……」
「……っ、黙っててごめん!でも、わかって!ユキと零のためなんだ!」
言いながら、百は思い切り千の両腕を強い力で掴んだ。
「……っモモ……腕痛いよ」
「うまくやっていくためには、長いものに巻かれなくちゃならない時もある!頼むから、そんな目で見ないで!………。」
「………。……触るな!」
バチン、と渇いた音を立てて、千が百に殴りかかった。
百は思わず、後ずさる。
「ワオ!すごいな!Re:valeの生のけんかなんて。一人で見物するのがもったいないくらいだ」
「……っ!出て行けよ!」
「ええ?これからなのに?」
「うるさい!出て行け……!!」
愉しそうに笑っている了を睨みつけ、百は無理矢理楽屋の外へと追い出した。
バタン、と扉が閉まったのを確認してから、千が百に問う。
「……大丈夫か?」
「しぃ。待って」
「え……?」
扉の外に耳を澄ませてから、百がすう、と息を吸って大きく口を開いた。
「…っごめんなさい!許して!ユキ、捨てないで!…っ、うぅっ……わあああ……っ!!わああっ、うっ、うぅ……」
一人扉の前で大げさな演技をし始める百に、千は困ったように声を掛ける。
「…あの……」
「もういいよ、大丈夫」
途端に冷静な顔になった百。そんな百に戸惑いながら、千が問う。
「……さっき僕に掴みかかった時、小声で、殴ってって言ったよね?」
「あの人、いじめっ子だから。ド修羅場見るまで帰らないと思って。ごめんね。ユキはジェントルマンなのに、ひどいことさせちゃって…」
「僕の方こそ、痛かったろ…。さっきの話は?大和くんに暴露させるとか、本気じゃないんだろ?」
「オレが零の後輩売るワケないじゃん!でも、暴露の動きがあるのは本当だ。週刊誌ネタじゃ終わらない、ビッグネームが関与してるんだって。その人たちが誰だか、知りたいんだよね。スキャンダルの暴露に関わる理由は、私怨か義憤かお金だ。全員の名前がわかったら、先手を打って説得できるかもしれない」
「予想はついてる?」
「何人か…。一人はガチでビッグネームだった」
「誰?」
「大女優の朝宮巴さん。志津雄さんの奥さん」
瞬間。
楽屋の扉が開く。入ってきたのは、貼り付けたような笑みを浮かべている了だった。