第11章 夏の日の陽炎
――翌日。
徹夜でMissionの主題歌のデモテープを仕上げた千は、ふらふらと揺らつく体でなんとか楽屋の扉に手をかけた。
「おはよう、モモ……」
ガチャ、と扉を開けた、瞬間だった。
「……楽屋にまで来るなよ!早く出てけって!ユキにバレるだろ!」
百の、怒ったような声が耳を掠めた。
「――大好きなユキには言えてないんだ?じゃあ零にも?あなたたち二人の身の安全を守る代わりに、後輩の情報売りますねって」
「………」
聞こえてきた声に、千は息を潜めたまま耳を澄ませた。
「ユキと零を納得させるのは無理だよ…。ねえ、どういう形で千葉サロンを暴露する?週刊誌程度じゃないんでしょ。暴露本?記者会見?音声が欲しいってことはVTR作るんだろ。どっかの番組もう抱き込んだの?」
「今慎重に決めてるところだよ。集まった材料次第で、なんとでもなるかな。二階堂大和の生出演があれば面白いけど」
「そこまで落とせるかはわかんないよ。ビッグネームの共謀者が誰かわかれば、大和を説得しやすいんだ…けど……?」
言いかけてから、百は扉の前に立っている千の姿にぎょっと目を見開いた。
「……なんの話?」
無表情で問う千。
百と話していたのは、月雲了だった。
「やあ!何度か会ったことがあるね!ツクモプロの月雲了だ!モモはいつも、君の自慢話ばかりだよ!」
「モモ、なんの話だ?」
「えっと……ゲームの話だよ!最近はまってて……」
ごまかそうとする百の言葉を遮って、了が口を開く。
「この先の君と零の立場を守るために、千葉サロンの暴露を手伝ってくれるんだよ。詳しく言うと、二階堂大和を切り売りしてもらう」
「…っユキに言わなくたっていいだろ!?」
「揉めるところが見たくて」
了はそういって、にっこりと笑った。