第11章 夏の日の陽炎
翌日――映画Missionの撮影現場。
大和が携帯を見やれば、百と零と三月から、着信が入っていた。
「ミツに……いや、百さんか零ちゃんに先に連絡しよう…相談してから……。あの夏の日みたいに、今日は暑いな……」
「――あの夏の日って?」
突然掛かった声に、驚いて振り向けば。
そこには千が立っていて。
「……千さん……。あんたが、親父の車を洗車しに来た日です。あんたを初めて見た時、こんな男もいるんだって思った。でも、あんたみたいな男まで親父に媚びてんのかって、うんざりしました。あんなやつを、尊敬してんのかって。だから、俺、笑ったんですよ。電話一本で呼び出されて、よくやるよなって。覚えてますか?」
「薄っすら…?」
「…蝉がわんわん鳴いて、あんたは汗だくで、真っ赤な顔して、シャツもびしょ濡れで…なんていうか、すげえダサかった。だけど、あんたは涼しい顔して言ったんです。洗車するとお小遣いがもらえるから。一緒に住んでる相方に肉が買えるんだよって」
「はは…。あの頃、貧乏だったからね」
「…俺は、笑った自分が恥ずかしくなって…。誰かのために一生懸命になれるあんたが、羨ましくてたまらなかった。俺も誰かのために一生懸命になりたかった。他人と距離を置いたまま、八つ当たりみたいな、適当な気持ちで始めたアイドルなんかで…一生懸命な奴らに出会った。みんな、アイドルに夢を見て、頑張って、俺を頼ってくれて…なのに…。言えないんです。おまえらを巻き込んで、めちゃめちゃにして、親父を困らせたかっただけなんて…あいつらに申し訳なくて…。信用されるほど、合わせる顔がなくなって…。…言うのが怖いです…。言えない代わりにいい人ぶってきた。俺は最低の偽善者です…」
泣きそうな顔で言う大和に、千は柔らかく微笑んだ。
「やっと、素直に言えたね。スマホ出して」