第11章 夏の日の陽炎
収録を終えた、夜。
大和は一人、千の家への帰り道を歩いていた。
「……もう、だめかもな……。これ以上、あいつらを困らせる前に俺の方から……辞めるって、言うべきなのかな」
ぽつり、と独り言のように呟けば。
「――大和!これから帰り?」
振り返れば、そこには百がいて。
「百さん…。はい、帰るところです」
「今ユキの家にいるんだって?いいなー!」
「すみません…。そっちではミツとイチがお世話になって」
「いいよ、いいよ。ケンカしちゃったんだって?一緒にやってればケンカくらいするよね。でもケンカは正面向いてやったほうがいいよ!今夜、のんびり、うちにケンカしに来ない?三月も一織も待ってるから」
「あはは…大丈夫です。喧嘩とかじゃないんで…今日も普通に仕事してましたから。ミツの方はなんて言ってるか知りませんけど…」
「三月は大和から話して欲しそうだったよ。いろんなことをさ」
百の言葉に、大和は黙り込む。
「長い間ケンカしてるのもったいないから、うちにおいでよ!話し合ってみたら?お寿司とってあげるから!ね!」
「………うるせえな!」
突然の大和の怒声に、百の肩がびくりと揺れる。
「あんたら二人して構わないでくだだいよ!余計ごちゃごちゃしたじゃないですか!」
「ご、ごめん。でも……」
「正面からケンカって、あんたらはどうだったんですか!?できなかったから、声もでなくなったんでしょ!?だいたい、長引かせたのだって百さんだったんじゃないですか!?自分で情報通っていう百さんが、万理さんがうちの事務所にいることを知らない筈がない。知ってて言わなかったんだ。違いますか!?」
大和の捲し立てるような言葉に、百は悲しそうに眉を下げた。
「……。……本当に知らなかったよ……」