第11章 夏の日の陽炎
* * *
「百さん!一年前の肉、冷凍庫に封印しとかないで、捨ててくださいよ!」
三月の呆れたような声が、百の部屋のリビングに響く。
「捨てないよ!食べるもん!冷凍してあるから食べれるでしょ!?」
「冷凍保存の力、過信しすぎです!零ちゃんの言う通りだ…冷凍庫がひどい……。こっちの魚は?」
「えっとね!去年の春、零と一緒に釣りに行って……」
「ダストボックスシュート!!」
「オレのお魚……!!!」
放り投げられた百のお魚が、見事ゴミ箱にシュートを決めたとき。一織の電話が鳴った。
「……七瀬さんからだ。すみません、少し電話にでてきます」
一織はそういって、少し離れたところで電話に出る。
「一織です」
≪あ、七瀬です。陸です≫
「知ってますよ。そちらの様子はどうです?」
≪みんな寂しがってるよ。三月は?まだ怒ってる?≫
「兄さんは怒ってませんよ。聞き分けのない言動をしたのは二階堂さんの方でしょう」
≪殴ったのは三月だろ。大和さんだけ悪いみたいに言うなよ≫
「そのことについては兄さんも二階堂さんに謝ったでしょう。他に兄さんが責められる点はありませんよ」
≪一織、三月の肩持ってばっか。そんな風に言ってたら、大和さん帰ってきにくいじゃんか!三月が出て行くときも引き止めるんじゃなくて一緒に出て行っちゃうし≫
「私が兄さんについていくのは当然のことでしょう?兄弟なんですから」
≪オレは天にぃについていかなかったよ。追いかけなかったオレが悪かったって言いたいの?≫
「論点がずれてます」
≪みんなバラバラでさみしくないんだ…!三月と一緒だから嬉しいんだろ。兄弟水いらずだもんな!このブラコン!!≫
「どっちがですか!?あなたにだけは言われたくないですけど!」
≪オレは仲直りするための相談の電話をしたっていうのに、三月のこと庇って怒ってばっかじゃん!≫
「兄弟なんですから庇うのは当たり前だって言ってるんですよ!」
≪またそうやって天にぃに腹を立ててたオレのことけなすみたいに言う!≫
「いい加減にしてくださいよ!この会話ループしてるんですけど!」
≪一織が同じ答えしかしないからだろ!?≫
こうして二人の言い合いに折り合いがつくことはなく。