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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第11章 夏の日の陽炎





――こういう時。なんて言えばいいんだろう、って。ずっと考えてた。

”ありがとう”、”疲れてるのにごめんね”、”来てくれて嬉しかった”、伝えたい言葉は、たくさんあるけれど。


今なら、言えるって思った。

”好きだよ”
そう言ったら、百はきっと、八重歯を出して嬉しそうに笑ってくれる。そう思った。


『……っ』


瞬間、prr...と、百の携帯電話の着信音が鳴る。
ポケットからスマホを出してその画面を見た百は、一瞬顔を歪めた。


『……。電話、出ないの?』

「……え?…ああ、うん。後で掛け直すから平気。それじゃあね、零。おやすみ」


そういって、百は零のおでこにちゅ、と軽くキスをして、くるりと背を向け車に乗り込んだ。車の中から手を振る百に、慌てて手を振れば。彼は笑って、イヤホンを耳につける。おそらく電話をするためだろう。


『……おやすみ』


小さく呟いた声は、車のエンジン音の中にそっと消えた。


『………』


――いつもなら、電話がかかってきたって、目の前で出るのに。

まただ。また、このモヤモヤする感情……。

この前と同じ。百が友達の家で焼肉を食べに行くと聞いた時に感じた、あの感覚。


誰からの電話なんだろ、聞かれたくないことなのかな、とか。いろんな悪い妄想が頭のなかをぐるぐるとまわって、胸の奥から沸いてくるもやもやした感情に、どうしようもなく不安になって。

車が見えなくなってしばらくしても、そこから動くことができなかった。




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