第11章 夏の日の陽炎
「零ちゃん、お疲れ様」
『お疲れ様です、万理さん!あ、今日はこのまま寮に帰ります』
一日の仕事を終え、そう言った零に万理は驚いたように目を見開いた。
「あれ、百くんは?」
『え?あ、百には今三月くんと一織くんのことを頼んでるので。私も寮に残ってる子たちのためにできることをしてあげたいから、しばらくは直帰します』
「三月くんと一織くん、百くんのところでお世話になってるのか……。でも、それなら安心だね。百くんは優しい子だから。大和くんは?」
『大和くんのことは、千ちゃんに頼みました!千ちゃんの家に泊まることになったみたいです』
「……え、千が?」
零の言葉に、万理が露骨に顔を歪めた。
「大丈夫かな……あいつ、人の世話焼きたがるんだけど心の機微がわからない上に、言葉きついから」
万理の言葉に、やけに納得する零。
『……確かに、慰めようとしてハンマーでぶん殴ってくるとこありますよね』
「そうそう。俺が昔彼女に振られた時もひどかったな」
『え……なんて言われたんですか……?』
「”自分のこといらないって言った女の子のこと考えてる時間が愉快だからまだ落ち込んでるんだよね?”」
『………自分が言われたらと思うとしんどすぎて吐きそう…』
「一か月、シカトしたよ」
二人は、歪めた顔を見合わせてから苦笑した。