第11章 夏の日の陽炎
『……それよりお腹空いたよ、百』
「え?あはは、可愛いなあ、本当。今日は何食べる?肉?」
『百といると肉ばっか。千ちゃんがいないとバランス取れないよね』
「零だって、肉好きだろー。あ、そうだ!じゃあ今日はオレん家でお魚食べよう!冷凍庫に大事に取っておいたお魚が――」
『はあ!?あれまだ取ってたの!?前に捨てろって言ったじゃん!』
「なんで!?まだ食べれるもん!冷凍してあるから平気でしょ!?」
『馬鹿じゃないの!?あれ取りに行ったの去年の春だよ!?ああ、駄目。本当駄目、この人。今日という今日は冷凍庫にあるもの全部捨てよ』
「全部!?オレのお魚……!!……零と一緒に釣りに行った時の思い出のお魚たちだったのに……」
うるうると瞳を潤ませながら残念がる百に、零ははあ、とため息をついてから仕方なさそうに口を開いた。
『……また取りに行けばいいでしょ』
「え……一緒に行ってくれるの?これからの時期暑いよ?零の嫌いな紫外線、全開だよ?」
『……いいよ、別に。ちゃんと日焼け止め塗れば』
「本当!?やったー!」
落ち込んでいた姿はどこへやら。
瞳をきらきらと輝かせて、ひまわりみたいに笑う百を見ていれば、思わずつられて表情筋が緩んでしまう。
「――零ちゃん、百くん、お疲れ様」
「うわ…っ!!バンさん……!!お疲れ様です!!」
後ろから掛かった万理の声に、百は慌てて頭を下げる。
「……百くん、そんなに恐縮しないで。今日も零ちゃんのこと、頼んじゃって大丈夫かな?」
「はいっ…!任せてください!零さんのことは責任もってオレが送り届けるんで!!」
『……零さんて……』
「あはは……(なんか、本当に一人娘を彼氏に託す父親のような気分だ……)。ありがとう。よろしくね」
万理に頭を下げてから、着替えやらを済ませた二人は百の車に乗った。