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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第11章 夏の日の陽炎



でも、本当は、少しだけ――不安だった。

百のことは大好き。
でも、天のことをちゃんと忘れられたわけじゃない。だから、そんな中途半端な気持ちの自分が、嫌で嫌で仕方なくて。

もし、百とちゃんと前に進めなかったら――そんなことを考えれば、怖くて怖くて仕方なかった。百のことを傷つけることだけは、絶対にしたくない。

だからもういっそ、私の全部を百でいっぱいにしてほしかった。
心も、体も――天しか知らなかった、私を。




「――ねえ、零」


名前を呼ぶ百の声にはっとして、顔をあげる。
予想以上に近くにあった百の顔に、瞳に、心臓がまたとくり、と音を立てた。


『な……なに?』

「顔、赤いよ?」

『……!!』


――あんたのせいだよ!!と心の中で突っ込んでから、思い切り顔を逸らした。

どぎまぎしている自分とは反対に、百はむかつくくらいいつも通りで。

”オレのことを男として見れなかったら諦めるから”なんて、百はそんなことを言っていたけれど。

今となっては、男として見るなという方が、無理な話だよ。



――ねえ、百。


私、前に進めてるよね?

百と、ちゃんと。




「こっち向いてよ。照れてる零、もっと見せて」

『……やだ』



――こんなことにもいちいちどきどきして、心臓がきゅっと締め付けられるんだもん。


百にいっぱい幸せをもらっている分、私も百にたくさん幸せをあげられればいいな。これから、たくさん。


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