第11章 夏の日の陽炎
でも、本当は、少しだけ――不安だった。
百のことは大好き。
でも、天のことをちゃんと忘れられたわけじゃない。だから、そんな中途半端な気持ちの自分が、嫌で嫌で仕方なくて。
もし、百とちゃんと前に進めなかったら――そんなことを考えれば、怖くて怖くて仕方なかった。百のことを傷つけることだけは、絶対にしたくない。
だからもういっそ、私の全部を百でいっぱいにしてほしかった。
心も、体も――天しか知らなかった、私を。
「――ねえ、零」
名前を呼ぶ百の声にはっとして、顔をあげる。
予想以上に近くにあった百の顔に、瞳に、心臓がまたとくり、と音を立てた。
『な……なに?』
「顔、赤いよ?」
『……!!』
――あんたのせいだよ!!と心の中で突っ込んでから、思い切り顔を逸らした。
どぎまぎしている自分とは反対に、百はむかつくくらいいつも通りで。
”オレのことを男として見れなかったら諦めるから”なんて、百はそんなことを言っていたけれど。
今となっては、男として見るなという方が、無理な話だよ。
――ねえ、百。
私、前に進めてるよね?
百と、ちゃんと。
「こっち向いてよ。照れてる零、もっと見せて」
『……やだ』
――こんなことにもいちいちどきどきして、心臓がきゅっと締め付けられるんだもん。
百にいっぱい幸せをもらっている分、私も百にたくさん幸せをあげられればいいな。これから、たくさん。