第11章 夏の日の陽炎
『お疲れ様でしたー!………うわっ!』
ラジオ番組の収録を終え、一通りスタッフと挨拶を交わし終えれば。急に後ろから思い切り抱き着かれた。
「お疲れ様、ハニー!」
後ろから抱き着きながら八重歯を出して笑っているのは、言わずもがな。
『……ちょっと、百。急に抱き着いてこないで』
「なんで?いいじゃん。いつものことじゃん」
『……そう、だけど……』
「収録中、我慢してだだけ褒めてよ!」
『…そ……っそんなの当たり前でしょ……!』
やけに近くにある百の顔も、突然抱き着かれることも、八重歯を出して無邪気に笑う笑顔も、全部いつも通りの筈なのに。心臓がざわついて、どきどきが止まらない。まともに顔を見れないし、くっつかれるだけでやけに照れ臭くなって顔が熱くなる。
勿論、理由はわかっていた。あの夜、一線を越えてからと言うもの、ずっとこの調子なのだから。
汗の滴る色っぽい横顔とか、意地悪そうに笑う顔とか、まるでガラス細工に触るみたいな優しい手つきとか。
百はちゃんと男の子なんだ、って、あの夜身に染みて思い知った。
―――人一倍優しい百のことだから。
私を傷つけないように、って。慎重になってくれてるのは、ちゃんとわかってたんだよ。
キスをしてもすぐに離れるし、視線は泳いでるし、私に触れる手は震えてるし。百は自分のこととなると本当に不器用だなあって、なんだか可愛く思えて、胸がきゅんってなった。
ソファで寝るなんて言いだした時はびっくりしたけど。でも、そうまでして我慢しようとしてくれてたことも、傷つけないように、って気を付けてくれていたことも、全部、痛いくらい伝わってきた。
だから、余計に応えたくて。
いつも私のことを笑わせてくれて、幸せな気持ちをたくさんくれる百に。
私も、百のことを――満たしてあげたい。そう思った。