第10章 空を覆う雲
* * *
『ちょっと!!百、起きて!!ねえ、起きて!!』
耳に心地良い、愛しい声が耳を掠める。
愛する人の隣で朝を迎えられるなんて、こんなに幸せなことはない。そんな幸せの余韻にもう少し浸りたいものだけれど、どうやらオレの愛するハニーは、朝からお怒りのようだ。
「……んー……何、どうしたの……」
まだ重たい瞼をこすりながら半身を起せば、顔に布を投げつけられた。何かと思えば、オレが昨日履いていたパンツだった。
確か昨晩、幸せな行為を終えた後、零の服と一緒に洗濯機にいれて、乾燥機をかけておいたはずなんだけど。
「……あ、洗濯物いれてくれたの?」
『……百のバカ!!変態!!なんで私の服とか下着と一緒に百のパンツ洗濯すんの!?信じらんない!!最低!!』
「………え」
お父さんに反抗する年頃の娘みたいなことを言われて、ぽかん、と開いた口が塞がらない。これでも一応アイドルなんだけどな??まだ覚醒しきっていない頭を必死に回転させてから、被っていた布団を慌てて引き剥がした。
「ひどい!モモちゃんのパンツは綺麗だよ!」
『綺麗とか汚いとかの問題じゃないし!!一緒に洗うこと自体が問題なの!!』
「は!?言ってる意味がわかんないよっ!」
ぎゃあぎゃあと朝から、パンツを一緒に洗濯しただのしないだので口喧嘩を繰り広げる二人。
昨晩のムードはどこへやら。ドラマのような、初夜を共にしたカップルのロマンチックな朝とは程遠いけれど。
それでも。
一生分の幸せをもらったんじゃないかってくらい、幸せで満たされている。明日死んだって文句なんて言えないよ。
未だに夢を見ているんじゃないか、なんて、そんな気さえしてしまうくらい。
昨日、零に会うまでは。どうしようもなくむしゃくしゃしてたくせに。
零に会った途端、嘘みたいに全部、すっと楽になって。それはまるで、魔法にかけられたみたいに。彼女はいつもこうやって、オレの心の中をいとも簡単に、笑顔一つ、言葉一つで、こんなにも幸せな気分にしてくれるんだ。