第10章 空を覆う雲
「……零」
ぎゃあぎゃあと怒っている零の腕をおもむろに取って、ぐいっと引っ張った。
バランスを崩した彼女は驚いたように目を見開きながら、そのままオレの胸の中にすっぽりと納まった。
ぎゅうう、と彼女の体温を堪能するように抱き締めて、さらさらの髪に顔を埋める。
「好き。大好き。愛してるっ!」
耳元でそう言えば、先ほどまでぷんぷん怒っていた零ははあ、と仕方なさそうにため息を吐いた。
『……もう』
照れてる彼女の顔が容易に想像できて、胸がきゅん、と締め付けられる。
毎日恋をするどころか、毎時間、いや、毎秒、彼女に恋をしている気がする。
抱き締めていた腕をゆるめて、彼女の顔を覗けば。やっぱり頬を桃色に染めて、小さな口を尖らせていて。そんな彼女の可愛い唇に、ちゅ、と口付ける。
ずっと触っていたくなるすべすべの肌とか、柔らかな唇の感触とか、さらさらな髪の毛とか。
全てが未だに夢みたいだけど。
それに応えるように背中に回された腕が、優しい声が、その甘い香りが。
全部現実だよって言ってくれてるみたいで。
オレは今日も。
そんな彼女に酔いしれて、飽きもせずに繰り返し恋をするんだ。