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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第2章 shaking your heart




「あれから毎晩、ステージの夢を見るんですよね。あの時と同じスタジオで、同じ歌を歌って同じステップを踏んで」

「同じように歌うの忘れて、がばっと飛び起きるのか!?」


一織の言葉に、陸が笑いながら言った。


「デリカシーのない人ですね!!バカなだけでなく!!」

「お前にデリカシーないとか言われたくないけど!でもまぁ、言いすぎるとお前、また泣いちゃうもんな!」

「っ……突き落とされたいんですか!!」

「お!やるかー!?」

「お前ら騒ぐから魚が来ねぇよ!!」

「ごっごめん黙ってる……」

「騒がしい七瀬さんに、黙ってることなんてできるんですか?」

「一織……泣いてるときは可愛げあったのに!」

「………」


陸の言葉に、しゅん、と肩を落とす一織。瞬間、三月が一織に思い切り抱き着いた。


「一織!大丈夫、泣いてなくても可愛いよ」

「兄さん……」


そんな二人を見て、陸も微笑み口を開く。


「そうだよ!可愛いよ――」


そう言って、陸が二人に抱き着こうとした、瞬間だった。


「うわあっ!?」


岩場に躓いて、勢いよく転んだのだ。

陸に押されて、三月と一織はそのまま川へと落下した。



「ご、ごめん!!大丈夫!?」

「あはっあはは!!つーめてー!!」

「……七瀬さん……あなたねぇ……!!」


楽しそうに笑う三月と、怒る一織。そして、謝る陸。

そんな微笑ましい三人の背後から、地獄の底から這いあがってきたような声がした。


『……あんたら………何やってんの……』


恐ろしい声に振り返ってみれば、苦虫をかみつぶしたような顔で三人を見下ろす零が立っていた。


「あ……零ねぇ…!」

『……足元』

「え?」

『魚!!!』

「え!?……あっ!!」


陸が転んだ反動で、バケツいっぱいに入っていた魚が、無残にも川へとぼとぼと落ちてしまっていた。


「うわあーーっっ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


陸の必死な声が、虚しくキャンプ場に響いていたのであった。


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