第2章 shaking your heart
「あれから毎晩、ステージの夢を見るんですよね。あの時と同じスタジオで、同じ歌を歌って同じステップを踏んで」
「同じように歌うの忘れて、がばっと飛び起きるのか!?」
一織の言葉に、陸が笑いながら言った。
「デリカシーのない人ですね!!バカなだけでなく!!」
「お前にデリカシーないとか言われたくないけど!でもまぁ、言いすぎるとお前、また泣いちゃうもんな!」
「っ……突き落とされたいんですか!!」
「お!やるかー!?」
「お前ら騒ぐから魚が来ねぇよ!!」
「ごっごめん黙ってる……」
「騒がしい七瀬さんに、黙ってることなんてできるんですか?」
「一織……泣いてるときは可愛げあったのに!」
「………」
陸の言葉に、しゅん、と肩を落とす一織。瞬間、三月が一織に思い切り抱き着いた。
「一織!大丈夫、泣いてなくても可愛いよ」
「兄さん……」
そんな二人を見て、陸も微笑み口を開く。
「そうだよ!可愛いよ――」
そう言って、陸が二人に抱き着こうとした、瞬間だった。
「うわあっ!?」
岩場に躓いて、勢いよく転んだのだ。
陸に押されて、三月と一織はそのまま川へと落下した。
「ご、ごめん!!大丈夫!?」
「あはっあはは!!つーめてー!!」
「……七瀬さん……あなたねぇ……!!」
楽しそうに笑う三月と、怒る一織。そして、謝る陸。
そんな微笑ましい三人の背後から、地獄の底から這いあがってきたような声がした。
『……あんたら………何やってんの……』
恐ろしい声に振り返ってみれば、苦虫をかみつぶしたような顔で三人を見下ろす零が立っていた。
「あ……零ねぇ…!」
『……足元』
「え?」
『魚!!!』
「え!?……あっ!!」
陸が転んだ反動で、バケツいっぱいに入っていた魚が、無残にも川へとぼとぼと落ちてしまっていた。
「うわあーーっっ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
陸の必死な声が、虚しくキャンプ場に響いていたのであった。