第10章 空を覆う雲
『……百が言ったんじゃん…!……男として見てもらえるように頑張るって。私は……前好きだった人を忘れたいからって理由だけで百と付き合ったんじゃない。恋愛したいからでもない。……百とちゃんと、前に進みたいって思ったから…!百の気持ちに応えたいって思ったから…!だから付き合ったんだよ!!覚悟なんて、その時から出来てるんだよ……っ!!』
―――ねえ、零。
君はいつだって、オレを幸せにする天才なんだ。
笑顔ひとつ、言葉一つで、オレをこんなに幸せな気持ちにさせてくれる
そんなことができるのは、世界でたった一人、零だけ。
「……本気で言ってる?」
『…当たり前でしょっ…』
「……。……本当に……いいの?」
『……何度も言わせないで…』
「無理してない……?」
頬を上気させたまま頷く彼女が可愛くて、たまらなくなって。
ゆっくりと、理性が音を立てて崩れ落ちる。
そのまま、彼女の唇を奪うように口付けた。
少し開いた唇を軽く舐めてから、味わうようにキスを重ねていく。
舌先をなぞって、ゆっくり徐々に舌を絡ませる。キスって、こんなに気持ちの良いものだったっけ。なんて、頭の片隅で思う。理由なんて、考えなくてもわかってた。相手が零だから、ただそれだけの理由で、オレの体を、心を、こんなにも悦ばせる。
少しだけ震えている愛しい彼女を安心させるように、ぎゅっと手を繋げば、冷たい指先で、ぎゅっと繋ぎ返してくれる。それだけで、もう言いようのない胸の昂ぶりに襲われて、心臓が痺れていく。
体も心も、このまま溶けてしまいそうだ。