第10章 空を覆う雲
「ちょ、ちょっと零、離れてよ……」
『え、なんで?いつもモモからくっついてくるじゃん』
「いやいや…!それはわけが違うでしょ?」
『なにが違うの?』
「なにがって……ねえ、零。オレだって男だよ?わかってる?これでも我慢してるんだよ(手を出すことを)」
『なんで我慢するの?(くっつくことを)』
「なんでって…!零に嫌われたくないからに決まってるだろ!」
『なんで嫌うの?意味わかんない、我慢なんてしなくていいのに』
瞬間。
ぷつん、と張り詰めていた糸が切れたみたいな音がして。
気がつけばオレは、零を組み敷いて、驚く零の顔を見下ろしてた。
『ど、どしたの……百?』
「………。……零はずるいよ」
『ずるい…?』
「オレの気も知らないで……」
『え?なに、私何かした?』
「何もしてない。してない、けど……。男はみんな狼だって言ったろ!オレだって……その、例外じゃないの!」
オレの顔を見上げる零の顔が、みるみるうちに桃色に染まって行く。押さえつけている両手が、ぴくりと動いた。零はオレから視線を反らしてから、小さく口を開いた。
『……そ、それくらい…わかってるもん』
「わかってない!全然わかってない!!」
『わかってるよ!!』
零の声が、オレの声を強く遮る。
突然の大きな声に、驚いて目を見開いた。
零の瞳は濡れていて、赤く上気した顔はいつもより生々しくて、色っぽい。そんな彼女の姿に思わずこくり、と喉が鳴る。