第10章 空を覆う雲
『百、寝れないの?』
「………え……あ、うん……」
―――寝れるわけないだろう。と、心の中で悪態をついてみる。
三年も片想いしてた相手が、オレのベッドで、同じシャンプーの匂いを漂わせて、目の前で寝てるんだぞ。
「……零も寝れないの?」
『うん。でも左向きになったから寝れると思う』
「……そ、そっか」
寝ちゃうんだ、って、残念に思ってる自分に嫌になる。
そんな雑念を振り払うように、くるりと零に背を向け、反対側を向いてみた。
零の可愛い顔を見てるから、いけないんだ。
視界に入れなければ、きっとまだマシだと思うから。
『おやすみ』
「うん……おやすみ」
言ってから、小さくすう、と深呼吸して心を落ち着かせようとしていれば、背中に温かな体温を感じた。
あろうことか。
零がぴったりと、オレの背中にくっついている。
――ちょっと。ちょっと…!なにしてくれちゃってるの!?
これ以上オレを殺しにこないでよ…!!
頭の中が軽いパニック状態に陥る。零がくっついている部分が今にも火が出そうなくらい熱くなってる。
「……ど……どうしたの……」
『百の背中あったかいから。いい感じに眠くなる温度なんだもん』
そういって、零はオレの背中に顔をぴとっとくっつけた。
―――待て待て待て。なんだこの生殺し状態。
零って、こういうところあるんだよなあ。基本は恥ずかしがり屋なんだけど、ちょっとズレてて、無意識にこういうことしちゃうの。嬉しくて仕方ないんだけど、心の準備してないと本当、心臓と体に悪いから。このままじゃオレは一睡もできずに、目と下半身を冴えさせたまま朝を迎えることになるだろう。そんな状態で仕事に行くことだけは避けなければ。