第10章 空を覆う雲
自分もちゃんと男だったんだな、と安心したのと同時に怖くなる。
触れたくて堪らなくなるし、自分だけを見てほしいというどうしようもない独占欲や支配欲に駆られてしまう。
自分は割と女性に対しては無欲な人間だと思っていたけど、どうやらそれはとんだ思い過ごしだったみたい。なんて痛いほど思い知らされて、結構凹む。
そんなことを悶々と考えていれば、お風呂場のドアがどんどんと叩かれた。
『ちょっと百!ドア開かないんだけど!?何してんの!?』
「げっ!」
ついつい物思いにふけってしまっていたせいで、自分がお風呂場に通じるドアに寄りかかっていることを忘れていた。慌ててドアを開ければ、部屋着に着替えた零が髪を濡らしたまま出てきた。怪訝な顔でこちらを睨んでいるのだけれど、そんな姿も可愛いなあと惚気てしまうのだから、自分は相当重症なんだろう。
『何してたの?もしかして覗き?』
「違っ…!いくらなんでも覗きなんてしないよ!?」
『いくらなんでも?』
眉根を寄せる零に、百は苦笑してからごまかすように言った。
「あ、寒くなってきた。服着てこよっと!」
『まだ着てなかったの?風邪ひくよ?』
零の言葉にほっと安堵してから、早足でリビングまで向かったのだった。