第10章 空を覆う雲
『……ごめんね、百』
「え?何が?」
『……その……さっき、電話で冷たく当たったりして』
百はそっと抱きしめていた腕をゆるめて、頭一つ分小さい零の顔を覗きこんだ。
――好きで、好きで、たまらない女のコが、自分の腕の中で、頬を桃色に染めて、大きな瞳を揺らしている。
そんな彼女を見ながら、百は思う。今まで自分をうまくコントロールして抑えられていたのは、”友達”という枷があったから。それが恋人という関係になった今、自分はどうなってしまうのだろう、と怖くなった。
そんなことを考えていれば、零が口を開く。
『今まではね……当たり前だったことがさ……付き合うことになってから、全部が違って見える。……不思議、だよね』
「……うん……オレも、だよ」
『今までは気にならなかったことが気になったりさ、ちょっとしたことで不安になったりさ……。百の隣にいるのなんて当たり前だったのに、なんか……変に緊張したりさ。……こうやってどうしたらいいかわからなくなること、これからもいっぱいあると思うんだけど……』
「……うん」
『……これからも、こうして百の傍に……いれたらいいなぁって……思うよ……っ。……はは、何言ってんだろうね、私、急に』
そういって、零ははにかんだように、照れたように、くしゃりと顔を歪めながら笑った。
「………」