第10章 空を覆う雲
「零になら、何されてもいいよ。零が喜んでくれるなら、何だってできる。それくらい、零が好き。好きすぎて、おかしくなりそうなくらい……零に夢中なんだよ、オレ」
――百の言葉に、真剣な瞳に、心臓の鼓動が五月蠅いくらいに高鳴る。
まともに顔なんて見れるわけがない。
顔は熱いし、心臓は五月蠅いし、呼吸は苦しいし、なんだかもう、どうしていいかわからない。
『……っ』
「こっち向いて、零」
百の言葉に、おそるおそる顔をあげる。
近くにあった綺麗な顔に、更に心臓が五月蠅く鳴った。
頭を撫でてくれていた百の手がゆっくりと降りてきて、熱くなった頬で止まる。優しく微笑む躑躅色の美しい瞳が目の前で揺れる。
そして、百はそのまま、ふわり、と奪うように口づけた。
唇をやさしくくわえるように、少しずつ角度を変えながら唇を重ねる。まるで解かされていくように、体が少しずつ熱を帯びていく。
名残惜しさを残すように、そっと唇を離したと思えば、百は零をぎゅっと抱き締めた。
「……会いたかった……っ」
『……百……』
「……触れたくてたまんなかった。電話で声聞いてるだけじゃ、スタジオで顔見るだけじゃ、全然足りないんだもん……」
ぎゅ、と抱きしめられている百の腕に力がこもる。
行き場をなくして彷徨っていた両腕を、百の背中にそっと回してみる。生温かい体温が直に伝わってきて、なんだか妙に照れ臭い。
こうしていると、さっきまで悩んでいたことが馬鹿馬鹿しく思えてくる。こんなに想ってくれているのに、こんなに大事にしてくれているのに。それがこんなに伝わってくるのに、くだらないことをうだうだ気にして、百に冷たく当たってしまったことを心底後悔した。
百の熱にとかされて、酔いが冷めたのかどんどん頭の中が冷静になっていく。零は思っていたことを伝えようと、小さく口を開いた。