第10章 空を覆う雲
「オレだって、これでも緊張してるんだけどなあ」
『……絶対嘘。にやにや笑ってんじゃん』
「嘘じゃないよ。ただ」
『ただ?』
「零に会えて嬉しい気持ちの方が、上回っちゃってるだけ」
そういって、百ははにかむように笑った。
とくり、とまた心臓が鳴る。
『……へ、へえ!』
「零は嬉しくないの?久しぶりに会えたのに」
タオルを頭にかぶったまま、百が問う。まだ少し濡れた髪が白い頬にかかって、なんだか妙に色っぽい。百の上半身なんて見慣れていたはずなのに、どうしてこんなにどきどきするんだろう。そんな百から視線を外してから、零は小さく口を開いた。
『久しぶりって……スタジオとかパーティとかで顔合わせてるじゃん……』
「二人で会うのは、って意味!ね、嬉しくないの?」
『……。……嬉しい、よ』
「本当?」
『……うん』
「じゃあ、もっとこっち来て」
百の言葉に、ぎょっと目を見開く。
『……は!?』
「駄目?」
『だっ……駄目とかじゃないけど!服着れば!?』
「え?なんで?」
『なんでも何も!そもそもさ!上半身裸ってどうなの!?女の子の前でさ!?仮にもアイドルでしょ!?』
慌てたように言う零に、百はきょとん、としながら首を傾げている。
「そんなの、今に始まったことじゃないじゃん。女の子の前でって……零の前でしかしないけど」
『そ…っそんなの知らないし!私の知らないところで、女の子に見せてるかもしれないじゃん!』
つい口走ってしまってから、はっとした。
さっきまで女の子と会っていたのかな、なんて考えていたせいで、ついそんなことを言ってしまった。自分で言ったことに震えあがりながら、おそるおそる隣に座る百の顔を見上げれば。
百は驚いたように目を見開いて、口をぽかんと開けている。