第10章 空を覆う雲
『……て、テレビ見ようよ!千ちゃんのドラマ……』
「………」
百からの返事はない。
おそるおそる百の方をちらり、と見てみれば、彼は悲しそうに眉を八の字に下げていて。
「……ねえ……オレ、何かした?」
『……え……!し、してない!してないよ!?なんで?』
「だって……明らかにオレのこと避けてるじゃん」
しゅん、と落ち込んでいる百の姿に、零の胸はきりきりと痛む。百は何も悪くないのに、自分はまた何をやっているんだろう、なんてどうしようもない罪悪感に苛まれた。
『違っ……、違う、避けてるんじゃなくて……!』
「避けてるんじゃないなら、何?」
百の真っ直ぐな視線と目が合って、心臓がとくりと跳ねた。
『……え……と……なんか……緊張、しちゃって』
「緊張?なんで?」
『いや……だって、その……』
ごにょごにょ言いながら、つい俯けば。
「ねえ、なんで?」
畳み掛けるように、百が言う。
『あの……だから……』
「うん、何?」
『つ、』
「つ?」
百の声音に、零ははっと気づいたように顔をあげる。
そこにはもう落ち込んでいる百はいなくて。にやにやと愉しそうに笑っている百がいた。
『………』
「早く早く。その続き、聞かせてよ」
『……楽しんでるでしょ!?』
「あはは。だって、零があまりにも可愛いんだもん!」
『……からかわないでよ!余裕そうでいいですね!』
八重歯を出して笑う百。付き合ってから初めて二人で会うということに緊張している自分とは反対に余裕そうな百を恨めし気に睨んでから、零ははあ、とため息を吐いた。
そんな零の横で、百は濡れた髪をタオルでわしゃわしゃと拭きながら口を開く。