第10章 空を覆う雲
「じゃあ、明日また迎えに来るから。百くんによろしくね!」
笑顔でそういう万理にお礼を言って、零は見慣れたエントランスをくぐる。百から渡されている合鍵のカードキーでエントランスを開けて、エレベーターに乗った。
――何度も来ているはずなのに。
何故か妙に、どきどきしていた。付き合ってから来るのが初めてだからだろうか。それとも、さっきまでわけのわからないことを考えていたからだろうか。多分、その両方なのだけれど。
いや、きっと、酔っているからだ。そうに違いない、なんて自分に言い訳をして。
カードキーを通せば、ピーッと部屋を開錠する音が静かな廊下にちいさく響く。機械音にびくりと肩を揺らしてから、おそるおそる部屋の扉を開けた。