第10章 空を覆う雲
『ちょっと!何言ってるんですか!?私行きませんよ!帰る!!』
「駄目。こんな状態で寮に帰らせたら百くんが可哀想」
『は!?可哀想!?……嫌です、今、百と話したくない……!』
「なんで?」
『だって………』
――どう接していいか、わからない。
誰と、何をしていたの。なんて、無意識にこんなことを気にしてしまっている自分が怖い。
『………』
黙ってしまった零をじっと見つめてから、万理は優しく頭を撫でた。
「素直になっていいんだよ。気になるなら、何も考えずに聞いていいんだ。寂しいなら、寂しいって言っていいんだ。恋人同士なんだから。躊躇することなんて何もないんだよ」
『恋人とか、恋愛とか……よくわからないです……。なんで気になってるのかも、寂しいって思ってるのかも、よくわからないんですもん……』
「それが恋人で、それが恋愛ってものだよ。これからたくさん知っていけばいい。ゆっくりでいいんだ。だから、自分の気持ちを素直にぶつけることから始めてみよう。百くんなら、わかってくれるよ。自信を持って言える」
『……万理さん……』
泣きそうな顔をしている零の頭を、よしよしとあやすように撫でてやる。
―――これから彼氏の家に送り届けるのかと思うと、なんだかちょっぴり寂しい。子離れしなきゃならない、親のような気分だ。この年でそんな気持ちを味わうなんて、想像もしていなかった。
なんてしみじみ思いながら、万理はそっと零の手を取った。