第10章 空を覆う雲
それに、仮に今百が女性と一緒にいたからといってなんだというのだろう。自分は一体、何故こんなにも悶々とわけのわからないことに延々と頭を張り巡らせているのだろうか。
そんな自分にどうしようもなく嫌気がさすのと同時に、初めてのことに頭が混乱してぐるぐるする。
お酒を飲めば忘れられるんじゃないか、と思ったけれど、どうやら逆効果だったみたい。いや、アルコールが足りないんだ。そうに違いない。
『テキーラください!!』
「は!?」
個室の扉を開けそう叫んだ零に、万理はこれでもか、というくらい目を見開いている。
「絶対駄目!すみません、いりません!」
『いります!ください!』
「ちょっと落ち着きなさい!」
瞬間、prr...と零のスマホの着信音が鳴った。
零が慌てて画面を見やれば、そこには”百”と表示されていて。今すぐにでも出たいはずなのに、なんだか電話に出るのが少し怖かった。余計な事を言ってしまいそうで。
「百くんからだ!ほら、早く出て!今から帰りますって!」
『………』
眉を八の字に下げながら画面を見つめてから、零はおそるおそる通話釦を押した。
『……もしもし』
≪あ、もしもーし!今どこ?まだ焼肉?≫
『……うん。何?』
≪無性に零の声が聞きたくなって。……ていうか、零……なんか、元気ない?≫
『……別に』
≪……。そっか……。ねえ零、今から会えない?≫
『……会えない!』
≪え……っ、なんで……?≫
そんなやり取りに痺れを切らした万理が、零の右手からひょい、とスマホを取り上げた。
『あ!』
「もしもし、百くん!俺です、万理です」
≪ばっ……!バンさん……!?うわ……!!オレ、バンさんと電話してる……!!≫
「驚かせてごめんね。電話聞いてたよ。零ちゃん、すこし酔ってるんだ。だから今から、百くんの家に送り届けるよ。この後のこと、頼んでもいいかな?」
≪え!?そんな、オレが行きます!!バンさんにそんなこと――≫
「いやいや、マネージャーだからね。家で待ってて。すぐに向かうから」
そういって、万理は電話を切った。