第10章 空を覆う雲
―――いつもなら。
何よりも優先して、時間を割いてくれていた。オフの時間が被る時に、会わないことなんてこの三年間ほとんどなかった。
―――友達って、誰だろう。
零の頭の中は、先ほどからそればかりだった。
今まで、百の用事という用事には必ず付き合わされてきた。変装してCDショップへ行くのにも、買い物へ行くのにも、友達と遊びに行くのにも、趣味の釣りや運動にも。何をするのにも一緒だったし、知らないことなんて一つもないと思っていた。
時間が空けば、いつも当たり前に一緒にいた。特に約束するわけでもなく、当然のように。しかしそれは、あくまで今までの話である。恋人同士という関係になった今、どうしたらいいのかわかなくて、急に謎の不安に襲われる。
こんなに気になるのならラビチャでも電話でもして聞けばいいものを、生憎そんな勇気は持ち合わせていない。友達のままだったら簡単に聞けたのだろうけど。いざ付き合ってみれば、干渉しすぎ、なんて鬱陶しく思われそうでなんだか気が進まない。
百の周りにいる人たちは、名前を聞けば大体わかる。何度か顔を合わせたことがある人たちばかりだし、たとえば自分が仕事の時に百がオフで、彼が誰かと遊びに行くときは「○○とご飯行ってくる~♪」なんて自らラビチャで報告してきた。
でも、今回は違う。
どことなく素っ気ない言い方で、「友達んちで焼肉食べる」それだけだった。
なんだかいつもと違う気がして、心の奥がざわざわする。
これは心配からくる不安?それとも――別の何か?
もしかして・・・女の子の家に行ってるとか?
そう考えてから「いや、ないない」と自分で自分に突っ込んだ。百に女っ気がないことは、おそらく自分が一番よく知っているだろう。
でも。
よくよく考えてみれば、今まで気にしていなかっただけで、女の子との交流はあったのかもしれない。仮にも彼は人気ナンバーワンのアイドルだし、言い寄ってくる女性だってわんさかいるはずだ。