第2章 shaking your heart
「―――零ねぇ?」
陸の声に、はっと我に返る。顔をあげれば、心配そうな表情で陸がこちらを見つめていた。
「どうしたの?具合悪い?」
『……ううん、ごめんね。ちょっと、寝不足でさ。ぼーっとしてた』
「大丈夫?忙しそうだもんね……釣りはやめて、車で休む?」
心配そうな陸に、気付けば三月と一織までが心配そうに自分を囲んでいた。
後輩に気を使わせてしまうなんて、なんて情けないのだろう、と自嘲してから、零は昔の思い出を振り払うように口を開いた。
『平気平気。ごめんね、陸。それと……三月くんと……一織くんも』
零の言葉に、三月と一織はぽかん、と口を開いて呆然としている。名前を覚えて呼んでもらったことが、相当嬉しいようだ。
『……ほら、陸。人の心配してる暇あったら手動かしなさい。釣りやったことあるの?』
「えっ!!あ、うんそうだよね!!釣りならやったことあるよ!?零ねぇにも教えてあげる!!」
「おいおい陸ー。お前教えられるほどうまくないだろー!零さん!よければオレが教えます!手取り足取り!」
「ちょっと兄さん……」
『……女だからって、舐めないでよね!』
零はぶすっとした表情で三月たちを睨むと、慣れた手つきで釣竿に餌をくくりつけ始めた。
「え!?零ねぇ餌触れるの!?あんなに虫嫌いだったのに!?」
『虫は今でも嫌い。……どっかの釣りバカに、毎週のように釣りに連れて行かれてたから、多少慣れただけ』
* * *
「へっくちゅん!」
「モモ、どうした?風邪か?」
「ううん。どっかで誰かがオレのこと褒めてるみたい!」
* * *
「「「どっかの釣りバカ?」」」
『そうそう』
そう答えてから、零は釣竿を川に放った。釣竿を投げてから魚を釣り上げるフォームまで、なんだか様になっている。