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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第10章 空を覆う雲




『もう一杯!!』


どん、と空のジョッキをテーブルに勢いよく置いてから、零が言った。
頬は紅く染まっていて、いつもぱっちりと開いている大きな瞳はとろん、と虚ろげだ。そんな彼女の腕に、万理は苦笑しながらそっと自身の手を置いた。


「……もう、この辺で止めておこうか」

『なんで!?今日はとことん付き合ってくれるって言ったじゃないですか!』

「いや……まあ、そうなんだけど……」


落ち込んでいた零を元気づけようと、お酒を許してしまった自分が悪かった。と、万理は心の中で盛大に反省していた。


『もう一杯ください!ビール!』

「ああ!もうダメだってば!」

『やだ!!飲ませてくれないなら明日仕事行かない!!』


潤んだ瞳で、頬を紅く染めながらわがままを言う零に、万理は思わずため息を溢した。


「………はあ」



――お酒を許した、俺が馬鹿だった。

普段は仕事のわがままなんて絶対言わないのに、お酒が入るとわがままは言いたい放題、立場なんて忘れて甘えん坊になるわで手がつけられなくなる。……いや、正しくは。可愛すぎて、自分の手に負えなくなる。

自分がもし、百の立場だったら。きっと、不安で仕方ないだろうな、なんてことを心に思う。だからこそ、早く家に帰らせて寝かしつけなくてはいけない。マネージャーとして、零の保護者として。そして、百のためにも。

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