第10章 空を覆う雲
「あれはスキャンダルのかたまりだ。公然の秘密で許されているのは、星影の力と、千葉志津雄の名前があるからさ。小さな事務所の無名俳優がやれば、ぼろくそに叩かれて業界から追放されるネタだ。逆風を吹かせば、一気にバッシングが吹き出す」
「………」
「暴露する人物も押さえてる。君たちが驚くようなビッグネームだ。今までのように、週刊誌の小ネタじゃ終わらない」
「……誰が暴露する?」
「ないしょ。うまくいったらIDORiSH7は名前を変える必要があるね。アイ…なんとかシックス。いいネーミングある?モモ」
淡々と笑顔で話す了を、百は睨みつけた。
「……あんたが愛されない理由を教えてやるよ。あんたはサイコパスだ。良心も愛情もひとかけらもない」
「そりゃ嬉しいね。優秀な企業家はサイコパスが多いそうだ。僕の成功を保証してくれてありがとう。でも、愛情はあるよ。ほら、君と同じ。零のことが大好きだ!」
「………っ、帰る!」
行こうとする百の腕を、了が掴む。
「座って、モモ。ベランダから放り投げるよ」
「オレがあんたに殴りかかる前に帰ってやるっつってんだよ!」
「君は友人だ。だから、零とRe:valeだけなら守ってあげてもいい。僕と取引するなら」
その言葉に、百は振り払おうとしていた腕を止めた。
「………」
「窮屈な世界で生かすには、千と零は勿体ない。僕が手に入れたら、最後の一滴まで残さず絞って換金する。モモの云う通り、二人は最高級の美品だからね!良質な家畜みたいに骨まで利用できるんだ。バッグも靴もスープも肥料も作れる。さあ、どうする?」
じっと了を見つめてから、百は小さく口を開いた。
「………取引って?」
「とあるビッグネームが、千葉サロンの実態を赤裸々に暴露する。これでも十分だけど、もっと、お祭り騒ぎにしなきゃね。千葉志津雄の息子。二階堂大和の生の告白、音声で録ってきて」