第10章 空を覆う雲
――いつもなら。
友達と焼肉を食べにいくときも、運動部でフットサルをしにいくときも、声を掛けてくれていた。「零も一緒に行こう」って。人見知りな性格の私に少しでも友達ができるようにと、百の友達をたくさん紹介してくれた。
なのに。
今日は言ってくれないんだ、なんて思ってしまっている自分にぞっとする。今までだって、気にしていなかっただけでたまにはこういうこともあっただろうに、何故か無性に寂しくて。
心臓が、きゅうう、と締め付けられる。この感覚は、感情は。一体なんなのだろう。
『……万理さんとご飯食べてから帰る』
≪あ……そっか……。わかった。じゃあ家に着いたらラビチャいれておいて≫
『……うん』
素っ気なくそう答えてから、電話を切った。
顔をあげれば、万理が眉根を寄せて険しい顔をしている。
『……友達んちで焼肉食べるらしいです』
「いつも一緒に行ってるんだから、一緒に行ったらいいのに」
『なんかそういう感じじゃなかったんですもん』
どことなく落ち込んでいる零の背中を、万理は優しくさすってやる。
「そういうときもあるよ。じゃあ、俺たちも焼肉行こう!経費じゃなくて、俺の奢りで。どう?」
『え!万理さんの奢り!?やったー!』
――空元気をしている自分に気付いたけれど、そんな思いを振り払うように笑ってみせた。
百には百の時間があって、プライベートな空間がある。
常にそこに足を踏み入れるなんて、図々しいにも程があるよね。今まで、百の全部を知ったような気でいたから、慣れないことに戸惑っただけだ。そう、それだけ。きっと、それだけ。
そう自分に言い聞かせて、もう余計なことなんて考えないように――スマホを鞄の中に押し込んだ。