第10章 空を覆う雲
万理の言葉に、更に恥ずかしくなって俯く零。頑張れ、とでも言わんばかりにぽんぽんと優しく肩を叩く万理。
『……。…自分から誘うなんて無理です……』
「なんで?ていうか、あれだけ百くんと遊んでて、零ちゃんから誘ったこと一度もないの?」
こくりと頷く零に、万理は口元を歪めた。
―――百くん……心中お察しします
心の中でそう呟いてから、万理は続けた。
「たまには自分から誘いなよ。向こうはそれを待ってるのかも」
『……なんて誘うんですか?』
「そこから!?」
不器用っぷりに思わずため息が出てしまう。
千も大概だけれど(種類が違うけど)、零も相当な曲者だ。とんでもない二人に囲まれている百に盛大に同情した。
「そうだな、○○食べに行こうよ!とかが一番誘いやすいんじゃないかな?」
『なるほど……』
「でも、わざわざ誘い文句を考える必要なんてないんじゃない?恋人なんだからさ」
『そういうものなんですか?恋人って。……………え?』
うんうんと納得してから、零は違和感に気付いて思わず顔を上げた。
『!?(恋人?今恋人って言った!?え!?)』
「ん?あれ、何かおかしい事言った?俺」
『えっ……あ、いや、その……恋人?え?』
「恋人……だろ?ああ、言い方が古いって?じゃあ、彼氏と彼女?」
『いやいや!そうじゃなくて…!!』
万理に言った記憶はない。付き合っている事を知っているのは、百がその日に報告したという千とおかりんの二人だけのはずだ。ならば、千から聞いたのだろうか。零が頭を張り巡らせていれば、万理が気付いたように言った。
「ああ、大丈夫大丈夫。社長はそのへん厳しくないし、自由にやってくれって感じだから。気にすることないよ、社長も応援してたし」
『しゃ、社長も知ってるんですか!?』
「え?そりゃあ、ね」
『……!す、すいません……!黙ってて…!本来なら私から報告するべきなのに…私が報告することを渋ってたせいで…』
突然頭を下げる零に、万理は首を傾げた。
「え?何が?」
『え……?千ちゃんから聞いたんですよね?』
「いいや。聞いてないよ」
『……?じゃ、じゃあ誰から!?』
「誰からも聞いてないけど」
『………は!?』