第10章 空を覆う雲
「あれ、零ちゃん、今日は直帰でいいの?百くんは?」
一日のスケジュールを終え、万理が零に訊ねた。
『……今日はないです』
「珍しい。なら、ご飯でも食べに行こうか?」
万理の提案に、零はスマホと睨めっこしながらこくりと頷く。
零が見つめていたのは、百とのラビチャ画面だった。
もうずいぶん前から、どちらが始めたわけでもなく、毎朝お互いの1日のスケジュールを言い合うのが日課になっている。空き時間や合う時間を見付けては、百が”○○に行こう”とか”○○しよう”とか声を掛けてくれていたのだけれど、今日は二人とも夜はオフなのに、珍しく何も言われていなかった。
『(……夜、何かあるのかな)』
ぽつり、とそんな疑問が頭に浮かぶ。
そして、すぐに我に返って思い切り首を振った。
『(なんで私、百の行動気にしてんの!?意味わかんない!なんで!?)』
「ぷっ……」
零の様子を見ていた万理が思わず吹き出した。
『え!?』
「ごめん……悩んでる姿があまりに可愛くて……」
くすくすと笑いながら、万理が言った。携帯と睨めっこしながら百のことを考えていた自分に無性に恥ずかしくなって、零は熱くなっていく顔をスマホで隠した。
『べっ別に悩んでるとかじゃないですし!!』
「あはは。気になるなら、聞いてみたらいいんじゃない?」
万理の言葉に、零はぽかん、と口を開けた。
何故わかった?とでも言わんばかりの顔に、万理はまだくすくすと笑っている。
「見てればわかるよ。百くんのことが気になるんだろ?」
『なっ……!!?』
「ほら、電話してごらん。たまには自分から誘ってみるのもいいんじゃない?男はそういうの、喜ぶものだよ」
『っ……!な、なんでわかるんですか!?エスパーですか!?』
「だって、零ちゃん、わかりやすいもん」