第10章 空を覆う雲
「やあ、モモ!会いたかったよ!」
白い肌に、切れ長の瞳。ストライプの入った派手なスーツに、金色に光るゴージャスなカフス。口元には笑みを浮かべているが、どこか闇のある雰囲気を纏った男だ。
「了さん、相変わらず派手だなー。オレがカラスだったら一番最初にそのきんきらのカフス突きに行くぞ」
百がそういえば、月雲了はあはは、と愉快に笑う。
「あはは!怖いな!八重歯が嘴になるまえにペンチで抜いて、デスクに飾っておこう。麻酔はいる?」
「ツクモの次男が今日は小遣い稼ぎ?こんな所に顔見せるなんて珍しいじゃんか。どうせ、ろくなことしてないんだろ。悪い連中とは手を切って、まともな仕事について、親孝行しなよ。頭も顔も悪かないんだからさ」
月雲了の言い回しにも動じず、貼り付けたような笑みを浮かべながら言う百。
了もにこにこと笑いながら答える。
「十代の頃から面接官とは相性が悪くてね。推薦で入れるはずの大学も落とされてしまった。何を学びたいか、素直に答えただけだったのに」
「なんて言ったの?」
「あなたがたの墓を掘るよりも、有意義で人の役に立てることが知りたい」
「知識人ってのは優しいな。オレなら落とす前にスリッパで殴ってる」
「ふふふ。モモは手厳しいね」
「了さんが失礼なんだよ」
「モモは人が好きだから、みんなに優しい。だからこそ、仲がいい振りをしてるけど、うちの親や兄が本当は嫌いだろう?モモの友達や同僚がボロボロになって仕事を辞めていくところを、何度も見てるからね」
「誤解だよー。いつもお世話になってるし大好きだよ!」
「素晴らしい!アイドルスマイルだ!」
言いながら、了は百越しにパーティ会場を見渡す。そして、一人の人物に視線を止めると、妖しげに笑った。