第10章 空を覆う雲
「なにがすごいの?」
陸の問いに、楽が答える。
「星影とツクモは映画の時代からの日本芸能界の二大巨頭だ。ツクモは昔、月雲活動写真って会社だった。千葉志津雄さんいるじゃん。あの人は星影芸能だよ。ミスター下岡さんはツクモの人」
「有名な人たちばっかりだ。詳しいですね、八乙女さん」
「親父に仕込まれたからな。昔は星影かツクモじゃないとテレビに出れないくらい勢いがあって、芸能界の二大帝国って呼ばれてたらしい。今は大分、権勢も落ち着いてる。そのおかげで俺達がこうやって、派手に活動できるようになったわけだけどな」
「そんな事務所と知り合いなんてやっぱりすごいなぁ……」
ぼそりと呟く三月に、岡崎が口を開く。
「逆ですよ。うちの事務所が小さいから、ふたりに迷惑かけちゃってるんです。情けない話ですが、うちみたいな歴史も浅い小さな事務所は、吹けば飛ぶような世界でしょう。トップアイドルを抱えていたら、当然のように大きな事務所に睨まれます。でも、星影に千くんが勧誘されても、百くんがツクモと親しければ、強引なことはできない。その逆もしかりです。ぎりぎりのバランスを取って、なんとか最前線でやらせてもらってるんですよ」
「Excellent!賢明な手段です。小国の外交と同じですね」
「なんか難しいですね…自分たちの実力とかやる気とか、そういうの以外も活動に関わってくるんだ」
「そのためにある事務所ですからね!みなさんと同じように、自分らもビッグで勢いのある事務所を目指してます。自分らが頑張れば頑張るほど、アイドルの活躍の場も増えますから!」
「そうよ!あんたたち、お偉いさん方にあいさつ回り行くわよ。失礼のないようにね」
そういう姉鷺に、TRIGGERのメンバーたちが続く。
「わかったよ、じゃあな」
「失礼します」
「パーティ、楽しんでね!」
「はーい!オレ達も飯取ってこようぜ!」
「おう!プリンあった?」
「マネージャーいってくるね!」
「はい!いってらっしゃい!」