第10章 空を覆う雲
「――だから、ナンパすんなっつってんだろ!」
「――ノー!ひどいです、ミツキ!」
そんな真剣なムードをぶち壊すかのような賑やかな声が聞こえてくる。IDORiSH7の三月とナギだ。
「IDORiSH7だ。あはは。あいつら、いつも騒がしいな。お、零もいるじゃん。おーい、こっちこっち!」
「ちょっとあんた!人の話聞いてた!?」
姉鷺の叫びも虚しく、IDORiSH7と零に声をかける楽。そんな楽を恨めしそうに睨みつける姉鷺の視線を浴びながら、IDORiSH7のメンバーと零がTRIGGERの元へとぞろぞろと駆け寄ってくる。
「あ!天に……」
「お久しぶりです、七瀬さん」
「あ、九条さん、久しぶり!……零ね……じゃなくて零さん!こっちこっち!」
「………」
壮五の影に隠れるようにしてひっそり立っていた零に、陸が声を掛ける。零は困ったように笑いながら、陸と天のところへ駆け寄ってきた。
「……零さん、お久しぶりです」
天の言葉に、零は僅かに瞠目してから、すぐに笑顔を作って見せた。
『お久しぶりです、九条さん』
「………」
どこか気まずい空気の流れる二人を、陸が心配そうに見つめている。そんな視線に気づいてか、零が明るく天に続けた。
『向こうにあったケーキ、食べました?……九条さん、好きそうだから取ってきました。ほら、陸も好きなやつ』
「うわあ、やったー!」
零がそういって手に持っていた皿を差し出せば。まさに天好みのケーキが並んでいて。思わず笑みが零れてしまう。
「……ありがとう」
『いいえ!』
「ちょっと!アットホームな空気出さないで!」
姉鷺の声など聞こえていないかのように、馴れ合い始める全員。