第9章 STARDAST MAGIC
ザアア、と波の音が耳に心地よい。
しばらく波の音に耳を傾けながら、海を眺めていれば。ふと、視線を感じて横を向く。
ばっちり百と目が合って、とくん、と心臓が鳴った。
「………ね、零」
『……なに』
「……ちゅーしていい?」
ふざけて言われたことは何回もあったのに。
こうも真剣な顔で言われたのは初めてで。
『………』
こくりと頷けば。
ひんやりと冷たい手のひらが、細くて長い指先が、熱くなった頬に触れた。
まるで、スローモーションのように、ゆっくりと、百の綺麗な顔が近付いてくる。
そっと、目を閉じれば。
唇に、柔らかくて、温かな感覚を感じて。
キスをされているのだと漸く理解する。
胸の中が擽ったくて、どうしようもなく満たされて。
このまま時間が止まってしまえばいいのに、なんて。そんな事さえ思ってしまうほど。
どこか名残惜しさを残しながら、百はそっと唇を離した。なんだかやけに恥ずかしくなって、ぷいっと顔を反らせば。百は八重歯を出してにこにこ笑っている。
『……何笑ってんの』
「可愛すぎて、幸せすぎて、にやけてたっ!」
『……ばか。どうせキスくらいで照れるなんてって馬鹿にしてたんでしょ』
「何言ってんの!?照れてるのはオレも同じだし!零は全然わかってないっ!」
そういって百は零の手を取って、自分の左胸に当ててみせた。
「わかる?オレ今絶対、零より緊張してるからっ!」
『……わかるわけないでしよ』
そうは言ったものの、手のひらからはちゃんと彼の心臓の鼓動が伝わってきた。どきどき、と。小刻みに音を刻む心音が。
「いいもん。これからたくさんわからせてあげるから。オレがどれだけ零を好きかって事!オレがちゃんと男だってこと、嫌ってくらいわからせてあげるから!」
『……ふうん……期待しとく』
照れ臭くて、ごまかすようにくるりと背を向けた。腕時計に目を落とせば、そろそろいい時間だ。
車に向かって歩き出せば、百が後ろからぎゅ、と手を握ってきた。