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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第9章 STARDAST MAGIC



ザアア、と波の音が耳に心地よい。
しばらく波の音に耳を傾けながら、海を眺めていれば。ふと、視線を感じて横を向く。

ばっちり百と目が合って、とくん、と心臓が鳴った。


「………ね、零」

『……なに』

「……ちゅーしていい?」


ふざけて言われたことは何回もあったのに。

こうも真剣な顔で言われたのは初めてで。


『………』



こくりと頷けば。

ひんやりと冷たい手のひらが、細くて長い指先が、熱くなった頬に触れた。

まるで、スローモーションのように、ゆっくりと、百の綺麗な顔が近付いてくる。


そっと、目を閉じれば。


唇に、柔らかくて、温かな感覚を感じて。

キスをされているのだと漸く理解する。


胸の中が擽ったくて、どうしようもなく満たされて。

このまま時間が止まってしまえばいいのに、なんて。そんな事さえ思ってしまうほど。

どこか名残惜しさを残しながら、百はそっと唇を離した。なんだかやけに恥ずかしくなって、ぷいっと顔を反らせば。百は八重歯を出してにこにこ笑っている。


『……何笑ってんの』

「可愛すぎて、幸せすぎて、にやけてたっ!」

『……ばか。どうせキスくらいで照れるなんてって馬鹿にしてたんでしょ』

「何言ってんの!?照れてるのはオレも同じだし!零は全然わかってないっ!」


そういって百は零の手を取って、自分の左胸に当ててみせた。


「わかる?オレ今絶対、零より緊張してるからっ!」

『……わかるわけないでしよ』


そうは言ったものの、手のひらからはちゃんと彼の心臓の鼓動が伝わってきた。どきどき、と。小刻みに音を刻む心音が。


「いいもん。これからたくさんわからせてあげるから。オレがどれだけ零を好きかって事!オレがちゃんと男だってこと、嫌ってくらいわからせてあげるから!」

『……ふうん……期待しとく』


照れ臭くて、ごまかすようにくるりと背を向けた。腕時計に目を落とせば、そろそろいい時間だ。

車に向かって歩き出せば、百が後ろからぎゅ、と手を握ってきた。

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