第9章 STARDAST MAGIC
アイドルは基本的に、恋愛はご法度だ。
小鳥遊社長は特に何も言わないけれど、当然のように暗黙のルールのようなものだと思っていた。
だから、誰かと恋愛なんて考えたこともなかったし、忙しくて、そんな仲に進展するような人なんていなかった。
オフがあっても、デビューしてすぐに仲良くなった百と千とばかり遊んでいたし、ドラマやバラエティで共演した俳優さんからお声掛け頂いても、人見知りな自分は連絡先すらろくに交換せずにやってきた。
というのは、多分言い訳で。
本当は心のどこかでずっと、天のことを思っていたから。
長いあいだずっと変わることなく、私の意識の真ん中にいた。私という存在にとってのひとつの大事なおもしのような役割を果たしていた。
たぶん、きっと。
あれは初恋で。
それも五年前に、終わったはずなのに。
ずっとどこかで、引きずっていたのだと思う。
恋愛、なんて。
ドラマや漫画で見るだけで、いいなあ、なんて思うだけで。自分がすることになるのは、もっとずっと先だと思ってた。
―――百のことはもちろん好き。大好き。
ずっと傍にいて欲しいし、ずっと傍にいたい。
これからも色んなことを一緒にして、隣で笑い合っていたい。
でもそれは、友達として?
それとも。
ひとりの男の子として?
考えたこともないことに、頭の中が混乱している。
くるくると脳みそが忙しなく回っていて、映画やドラマの撮影よりもずっとずっと緊張してる。
そんな私の様子を見兼ねたのか、百が口を開いた。
「……零、こっち向いて」
『え……?あ、うん……』
言葉通りに、百の方を向いてから、顔を見上げる。
百の顔はやっぱり真剣で、いつもみたいにへらへら笑ってる百はいない。
「……オレと、付き合ってくださいっ!」
そういって百は勢いよく頭を下げた。