第9章 STARDAST MAGIC
ひんやりと肌を掠める潮風が心地よい。少し歩いてから人気のないところで立ち止まり、手摺に手を掛けた。
視線の先に見える夜の海は月に反射して、ガラスの粉を散りばめたように煌めいていた。
ぽつぽつと見える人影は、幸せそうに浜辺で肩を並べて寄り添っている。
しばらくそんな景色を見つめていれば、百が口を開いた。
「……あのさ……っ」
『うん……』
「今日の事、本当にありがとう。今日の事だけじゃない、オレの声が出なくなってから……零にはめちゃくちゃ迷惑かけた…。なのに、色々してくれて……その…本当に、めちゃくちゃ嬉しかったんだ」
『…あはは、なんだ、そんなこと…。ううん、私がいつも百にしてもらってることに比べたら、全然だよ。こちらこそ、いつもありが―――』
「―――好きだ……っ!」
いいかけようとした言葉を遮って、百が叫んだ。
突然の大きな声に、零の肩はびくりと揺れる。周りに人がいなくてよかった、なんて思ったのも束の間、言葉の意味に気づいてから、目を見開いた。
『え……?好き、って……誰が、誰を?』
「……オレが、零を」
『そんなの、知ってるよ。そうじゃなくて』
「違うよ!!零が思ってるような好きじゃない……オレは零の事が……っ…ひとりの女の子として好きなんだ」
百の言葉に、開いた口が塞がらない。
―――百が。私を。女の子として、好き?
『……え?ちょっと待って……百は千ちゃんのことが』
「?ユキが何?」
『あ、いや……なんでもない』
とてもじゃないけれど、百と千のBLについて考えていましたなんて口が裂けても言えるような雰囲気ではない。
ごまかすように咳払いをすれば、百が続けた。
「……ずっと秘密にしてた。オレが零を女の子として好きなことがバレちゃったら、避けられちゃうかな、とか、気まずくなっちゃうかな、とか、距離置かれるのが怖くて、傷付くのが怖くて、ずっと逃げてた」
『…………』
「でも、逃げるのはもうやめた。友達のふりして側にいるのも、もうやめる」
百は言ってから、すうと息を吸ってから零の顔を見つめた。
まっすぐで、透明で。月明かりに反射して揺れるその瞳は、とても綺麗だった。