第9章 STARDAST MAGIC
『ごめんね、天。ありがとう、もう大丈夫。……行かなきゃっ!』
「………うん」
今にも込み上げてきそうな感情を必死に抑え混んで頷けば。
彼女はくるりと踵を返して、静かな廊下を駆けていった。
小さな背中が、どんどん遠くなっていく。
まるで、届かないところに行ってしまうみたいに。
こんなに近いのに、こんなに遠い。
走れば追いつくのに、走ることが出来ない。
手を伸ばせば簡単に触れることも、抱きしめることも出来るのに、決して求められる状況にない苦しさが胸を突く。
今のボクには、望むことすら許されない。
百さんのおかげで、久しぶりに話せて。
嬉しくて、幸せで―――浮かれていたんだ。
自分の状況を忘れそうになってた。
でも、久しぶりに九条さんに会って
なんのために、ボクが九条さんの元へ行ったのか。改めて気づかされた。
「………零」
苦々しく口から吐き出した愛しい名前は、ボクの心を苦しめる。だから、心の中で静かに告げた。
―――好きだよ、零。君を愛してる。
声に出してしまえば、きっと。迷うことなく彼女を求めてしまうから。
一歩でも動けば、瞳から想いがぼろぼろ溢れそう。
後ろからは、ウィザードを探していた陸や楽たちの声が聞こえてくる。
感傷に浸るのも、もうおしまい。
だから、ぱちん、と両手で両頬を叩いた。