第9章 STARDAST MAGIC
『………天……』
名前を呼ぶ聞き慣れた声に、ハッとしたように天が振り返る。
そこには、呆然と目を見開いた零が立っていて。
「………零………」
『……今の人、誰……?』
「………」
零の問いに、天は黙ったまま。何も答えない。
『なんで……天がゼロを逃がしてるの?』
「………」
何も答えようとしない天に、脳裏に浮かぶ一つの疑問。
あの天が、リスクを背負ってまでわざわざ逃がそうとする人―――。
『もしかして、さ……。……あの人……九条―――』
「っ……違う!!」
天の声が、静かな廊下に響いた。
『………そっか……』
蚊の鳴くような声で、零が呟く。
しばらくの沈黙が流れてから、零は再び口を開いた。
『……天。…聞きたいことがあるの』
「……何」
―――あの日から、ずっと。聞きたかったこと
『……天は、天の意思であの人といるの?……ほんとは……何か別の理由があるんじゃないの?』
零の問いに、天は唇を噛み締めてから、諦めたように笑った。
「……そんなこと、わざわざ言うまでもない」
『ちゃんと言ってよ、天の言葉で聞きたい…。天は、いつも大事なことは言ってくれないじゃん…。あの日、消えてよって言ったときだって…!何か、理由が―――』
「っ……ない!!」
叫ぶような天の声が、零の言葉を遮る。
「……そう思ったから言ったんだ。…ボクについてこれないなら、消えてって。……理由も何も、ない」
『そっか……。今でも……そう思ってる?』
零が、不安そうに眉を下げながら問う。