第9章 STARDAST MAGIC
『必要ないよ』
「…零……」
「歌えるだろ、モモ」
「…ユキ……」
百は、一度俯いてから震える拳をぎゅっと握る。
その手を優しく包み込むように、零が百の両手を取った。
『――大丈夫。歌えるよ、百』
零の言葉に、百は意を決したように顔を上げる。
「……っ、うん……。歌える……!オレ、歌えます!」
「了解しました!」
安心したようにスタッフが駆けていく。
『頑張って!百!千ちゃん!』
「ああ。零、色々と本当にありがとう。最高のコンサートにしてみせるよ」
『うん!楽しみにしてる!じゃあ―――』
その時、ステージへ行こうとする零の腕を、百が掴んだ。
『…百?』
「零……。ありがとう……本当に」
改まってそう言う百に、零はきょとん、としてからくすくすと笑い始めた。
『ぷっ……何、改まって』
「……あの、さ……!」
いつもみたいに、へらへらと笑い返す百はいない。
百はまっすぐ透明な瞳で、零を見つめている。
「……こけら落としが終わったら……ちゃんと、オレと千の五周年コンサートを成功させることができたら……。そしたら…」
『うん…?』
「そしたら……っ…話を聞いてくれる?……ずっと、秘密にしてたこと」
真剣な顔で言う百に、零はこくりと喉を鳴らした。
こんな真剣な表情の百なんて、初めて見たから。深刻なことなのかな、なんて心臓が騒つく。
『……うん…。わかった、聞くよ』
「ありがとう。頑張るから……オレ。最高の歌を君に届けるから!…だから、見てて」
『うん!』
笑顔でそう答えてから、零はステージへと駆けていく。
そして―――。
『皆さま、長らくお待たせいたしました!それでは、記念すべき結成五周年を迎えた――Re:valeの登場です!』
零のナレーションに、会場中から歓声が上がる。熱気にあふれたゼロアリーナは、圧巻だった。